|
それぞれの個性を認め生かしあって一緒に目標を実現していく「協働」。前号に引き続き、県内の協働の実践事例をご紹介します。今回は、廃校を生かし、やすらぎの場、体験と交流の場を多くの人々に提供している宿泊型体験学習施設「星ふる学校『くまの木』」における「NPO法人塩谷町旧熊ノ木小学校管理組合」と「塩谷町」の事例から、協働のキーポイントを探ります。
■協働のはじまり
地元住民の熱意と理事長の熱意
塩谷町熊ノ木小学校は、1999年3月31日に廃校。124年の歴史に幕を閉じました。「この木造校舎を地域のシンボルとして残してほしい。」という地元の要望から、町が事務局となり、住民の代表を集めた「旧熊ノ木小学校跡地利用検討委員会」が発足。一方、「廃校を生かした社会貢献活動ができないか」と考えていた遠藤正久さん(現NPO法人塩谷町旧熊ノ木小学校管理組合理事長)は、全国の廃校調査を行うため、塩谷町を訪れていました。町は遠藤さんを前向きに受け入れ、遠藤さんは検討委員会にオブザーバーとして参加し、『廃校を活用した体験学習の構想』を提案しました。
地校となった小学校を地域活性化の拠点に
地元住民が中心になり、熱心な検討が続けられた結果、熊ノ木小学校は、地元からの要望である「地域活性化の拠点」と遠藤さんの提案する「宿泊型体験施設」を同時に取り入れた「星ふる学校『くまの木』」として、2002年に生まれ変わりました。
町が農林水産省の補助(やすらぎの交流空間整備事業)を受けて施設の改築を行い、施設・敷地全体の管理運営は「NPO法人塩谷町旧熊ノ木小学校管理組合」が行う「公設民営方式」の運営体制がとられました。同法人は、町へ施設の家賃を払い、町からは、施設の維持管理と景観整備にかかる委託費を受けています。
「安らぎの場・体験と交流の場」の提供
開設準備中から「くまの木便り」や、町の広報誌に進捗状況を掲載するなど、町と一体で地域住民に対する情報提供に努めました。地域住民と利用者が楽しく交流し、地域と人々を活性化することを目標として、豊かな自然を生かした40種類ほどの体験学習メニューを用意しました。なかでも星が良く見える場所という地域の特性を生かした「天体教室」は一番の人気メニューとなっています。また、施設で使う食材も地元の直売所からできるだけ仕入れるなど地域に根ざした運営を心掛けています。このような取り組みから、廃校の有効活用に積極的に取り組んでいる事例をまとめた「廃校リニューアル50選(文部科学省平成15年実施)」にも選定されています。
■協働の内容
〜「星ふる学校『くまの木』」におけるNPO法人塩谷町旧熊ノ木小学校管理組合の活動〜
1 宿泊事業・・・安らぎ・体験・交流の宿を運営。
2 体験学習事業・・・都市農村交流を目指し、地元の名人が指導。
-
自然観察体験(天体観測、バードウォッチング等)、農林業体験(炭焼き等)、伝統工芸体験(木工芸、切り絵細工等)、文化体験(昔の遊び、影絵等)、郷土料理体験(蕎麦打ち等)
- 年間会員制コース・・・(こだわりの蕎麦作り体験)
-
くまの木自然クラブ・・・人と自然を大切にする子ども、自立した子どもを育てることを目的に2004年設立。会員は小学校高学年から中学生。県立博物館等との連携を図りながら、毎月1回自然観察や自然体験活動、プール跡地につくった「ビオトープ」の観察・調査を行っている。
3 会報「くまの木通信」の発行・・・年4回発行
4 イベントの開催・・・町の後援、協力をえて開催
- 「くまの木」星空コンサート・・・地域社会の活性化をねらいとし、地元の人が主役の手作りコンサート。
- くつろぎお楽しみ会・・・地域の高齢者を招待し、開催(年1回)。
- くまの木公開講座…地元の子どもたちが先端の科学に接する機会を提供(年1回)
〜愛称「星ふる学校『くまの木』」名前の由来〜
塩谷町を中心に、旧熊ノ木小学校施設の愛称を公募。2000年冬季の全国「星が良く見える場所」調査で、旧熊ノ木小学校跡地で観測したデータが全国のトップとなり、星がたくさん見える夜空を表現したこの愛称に決定した。 |
■協働の「キーポイント」
協働のキーポイントを、NPO法人塩谷町旧熊ノ木小学校管理組合理事長遠藤正久さん、4月から新しく担当になった寺田正さん(塩谷町産業課)、前担当者の石川誠さんに伺いました。
言いたいことの言い合える関係
遠藤:「くまの木」は、町の施設です。施設を維持管理し、持続させているということ自体が協働だととらえています。地域を活性化することは、私たちのミッションであり、町の目標でもあります。しかし、町からああしろ、こうしろという指示はありません。管理運営を信頼して任せていだいていると感じています。また、イベントでは必ず町の後援や広報誌への掲載など、町の協力を得て実施しています。自然にそうできるのは、役場の人たちとの間にあまり垣根がないからだと思います。グチでもなんでも、言いたいことの言い合える関係が協働のポイントではないでしょうか。
石川:中身は「くまの木」におまかせし、町は後押ししているだけです。ふだん、役場担当者とNPO法人とで定期的なやりとりはありませんが、必要な時は必ずお互いに連絡をとり、情報交換もしています。全国にも廃校利用の施設はありますが、月日が経つとマンネリ化が生じ、継続は難しいようです。「くまの木」でもリピーターが離れていかないような企画を考えているようです。将来的にはやすらぎの交流、都市農村交流の拠点となるような施設にしてほしいです。
協働は枠をこえて
遠藤:公民館が主催・募集したものを、「くまの木」で体験や活動場所を提供して毎年協働で開催している事業もあります。また、県農業振興事務所、町、「くまの木」の協働(中山間地地域グラウンドワーク活動等支援事業)で、塩谷の土地と気候に合う品種の小麦を育て、その小麦でパン作りを行っています。パン作り教室の講師も地元住民です。今後は講師を育成する講座を年間で開催できればと思っています。地域コミュニティを再生し、町が目指す(※)グリーンツーリズムを実現するための共同作業を、地域住民の期待に沿う形で展開していきたいです。このパン作りの活動がその一つのきっかけとなれば良いと思います。(※)グリーンツーリズム・・・都市住民が農村に滞在し、地域の自然や文化、人々との交流を楽しむ余暇活動。
石川:パン作り教室は、申込開始から1時間で定員に達するほど好評を得ています。このように「くまの木」と地域の方の関わり合いを増やしていくことで地域の交流拠点づくりが発展していくのではないかと思っています。
地域への協働の種まき
遠藤:「都市と農村の交流」は、町も推進しており、農村地域を活性化していくための拠点として「くまの木」が活躍し、成果を出したいと思います。より多くの地元の方々にもそういう自覚、希望を持っていただけるよう、今後も町と協働でグリーンツーリズムを推進し、「くまの木」独自の仕組みと仕掛けで都市との交流を深め地域の活性化に貢献していきたいと思います。
石川:町、「くまの木」だけでなく、やはり地元住民の参画、協力が必要です。これからもいろいろな取り組みを通して地域に協働の種まきをしていきたいです。パン作りのような、地元の方が関われる機会を少しずつ増やして行ければ良いと思います。
寺田:町では現在「グリーンツーリズム推進協議会」を整備中で、遠藤さんもそのメンバーです。都市との交流を深め、ここ「くまの木」が都市から来た方や定年を迎え農村に住みたいと思っている方々の交流の場、都市農村交流拠点となっていければよいと思います。そして訪れた方が、この町に住みたいと思っていただければと思います。
粘り強く頑固に
遠藤:一般的に、市町村の行う事業は、国や県の補助期間が終了したり、担当者が異動になると一件落着となる場合が多いので、NPO側が粘り強く頑固でないといけないと思っています。成果の出ない協働で終わった場合、税金の無駄遣いにNPOも加担したことになります。行政と協働する場合、税金を使わせてもらっているんだという意識を、双方ともしっかり持つことが大切だと思います。
|
役場担当者は、大規模なイベントの交通整理も行うほか、担当者以外も「くまの木」の活動に関心を持って、住民として参加・協力しています。地元の熱意と遠藤さんの熱意から生まれた「くまの木」を拠点とした協働は、「都市との交流を通じ地域の活性化に貢献すること」という共通目標のもと、NPO法人、町役場、そして住民とが一体となって地域全体ですすめられています。 |
この内容は情報誌「ぽ・ぽ・ら」2006年6月号に掲載したものです。 |